1日に400人が訪れる人気の和菓子屋「夢菓房たから」で働くということ

レッド

written by 斉藤彩

香川県高松市春日町。そこには1日400人、繁忙期だと1000人ものお客様が訪れるという人気の和菓子屋「夢菓房たから」がありました。
なんとお客様の7割はリピーターの方だというたからさんが、ここまで地域の方に愛されている秘密はどんなところにあるのか。
今回は社長の濱田さんと採用担当の上原さんのお二人に、商品へのこだわりや働くスタッフへの想いまで、「夢菓房たから」の”ありのまま”を教えていただきました。

インタビュイー:濱田 浩二(はまだ こうじ)さん(56歳)

インタビュイー:濱田 浩二(はまだ こうじ)さん(56歳)

株式会社夢菓房たからの代表取締役社長。娘が2人、息子が1人いるお父さん。
最近は和菓子作りから少し離れて代表業を行うかたわら、写真撮影、自社SNSの更新、庭の管理などもご自身で行っているという。

<個人的に好きなたからの商品TOP3>
1位:水無月
2位:特大いちご大福
3位:長崎カステラ

インタビュイー:上原 彰彦(うえはら あきひこ)さん(48歳)

インタビュイー:上原 彰彦(うえはら あきひこ)さん(48歳)

株式会社夢菓房たからの採用担当兼接客販売員。
商品への愛は代表濱田さんに並ぶほどで、たからのいちご大福が大好きだと話す笑顔がとびきり優しい。

<個人的に好きなたからの商品TOP3>
1位:いちご大福
2位:和のテリーヌ
3位:讃岐のレモンと小原紅早生みかんのクリームサンド

インタビュアー:田中 乃亜(23歳)

インタビュアー:田中 乃亜(23歳)

「働くかっこいい大人を増やす」をビジョンに掲げるインビジョン株式会社の新卒1年目。
香川県まで足を運ぶことができないため取材はオンラインになってしまったが、たからさんのいちご大福を取り寄せ、インビジョン社内にいちご大福旋風を巻き起こした。

餡子が嫌いで継ぐ気もない!そんな若者が和菓子屋の社長になるまで

 

ーーー「たからまんじゅう」から「夢菓房たから」に社名変更をしたと伺いました。その背景にはどんなエピソードがあったのでしょうか?

濱田さん:以前は「有限会社 宝饅頭」という社名でした。
その頃は和菓子と洋生菓子、いわゆるケーキもやっていたんですよ。ですけど、その頃いわゆるパティシエブームで、和菓子と洋菓子、どちらかに絞っていかないとやっていけないと思ったんです。「ケーキやったらケーキ屋専門店に買いに行くよなぁ…」という意識があったんで、うちは和菓子1本で行こうと

ただ社名に「饅頭」というのがもうコテコテじゃないですか。笑
それが嫌だったんで本当は「饅頭」をやめて「たから」だけにしたかったんですけど、法務局に持って行ったら「たからだけでは紛らわしいからダメです!」と言われましてね。笑
うちの師匠のところが「夢工房」という肩書きだったので「ゆめこうぼう」の「こう」をお菓子の「菓」に変えて「夢菓房」にした、という経緯があります。

 

ーーー元々家を継がれる予定で師匠の元で修行をされていたんですか?

濱田さん:最初は家を継ぐ気が全くなくて…。笑
京都の「与楽」というお店に、たまたま見学くらいの軽い感じで行ってみたらと、、、親父から教えてもらいました。そこで食べた洋風な和菓子や大福なんかがものすごく美味しくてね。それでこの世界に入ろうと決めました。

 

ーーー別の記事で「最初は餡が好きじゃなかった」と拝見して驚きました。餡嫌いだった方が代表になって餡を扱っているなんて、と。

濱田さん:皆さん最初はそんなもんなんじゃないですかね?笑
自分で扱う商品を最初は嫌いだった、という代表って多い気がします。

 

ーーーそうなんですかね…!今も餡子はお嫌いですか?

濱田さん:そんなことないですよ!
ただ子供の頃って和菓子かケーキかって言われたら絶対にケーキじゃないですか。たまに餡子派の人がいますけど、ほとんどはケーキだと思うんですよね。私も桜餅は皮の部分だけ食べて…っていう子供だったので。笑

昭和時代の餡子ってむちゃくちゃ甘かったんですけど、今は昔と違って餡子の砂糖の量が減って甘さが控えめなんですよ。
そういうこともあって、今は餡も好きですよ!

 

地元で愛される和菓子屋が大事にしている3つのこだわり

 

ーーー”夢菓房たから”の経営においてこだわっていることはありますか?

濱田さん:もちろんありますよ。1つ目は何と言っても材料
小豆もただの小豆ではなく「丹波大納言」というものを粒あんに使ったりと、できるだけ美味しい素材を使うようにしています。
美味しくないものを使って美味しいものを作るのって、名人でも無理なんです。だから材料選びは本当に大事にしています。

 

ーーー地元の素材を使ったりもされているんですか?

濱田さん:地元で手に入るものは地元のものを使うようにしてますね。小豆なんかは北海道とか丹波とかの方が合うのでそっちを使ってますけど、まさに苺は地元のもの使っていますよ。

 

ーーーお店の2階にフリースペースがあると伺ったんですが、そういうアイデアも濱田さんのこだわりのようなものですか?

濱田さん:そうですね、地元の人に「コミュニティな場所を提供する」と言ったら大袈裟ですけど、とにかく「なんか使ってもらえたらいいなぁ」という思いで始めました。
PTAの会合だったり、展示会、フラワーアレンジメントの教室、化粧品会社のメイク講座など、色んな方が利用してくれているんですよ。

 

ーーー1つ目は材料、2つ目は地元の人の憩いの場になること。3つ目はどんなこだわりでしょうか?

濱田さん:敷地の広さが2400坪くらいあるんですが、庭にたくさんの種類の木や花を植えてるんです。毎年、木を5本程度は枯れるので入れ替えたり、芝生も張り替えたり。管理が結構大変なんですけど、私はそういうのが大好きで!
そこの庭でヒバリのさえずりのもと、のんびりとした空間で季節を感じるのが最高に癒しなんですよね。

 

和菓子に込められた”意味”と”想い”とは

ーーー和菓子って形にも意味があると伺ったんですが…

濱田さん:ちょうど6月に食べる「水無月(みなづき)」というお菓子は三角形の形をしていて、その形で”氷”を表していたりします。「夏越祓(なごしのはらえ)」という半年の間に身に付いた穢れを清める神事があるんですが、水無月はその6月30日に食べる伝統的な和菓子なんですよ。
昔の人は病気になることも多く、今ほど医療が発達していなかったので、自分は勿論のこと家族の無病息災を願うお菓子なんかは非常に多いです。

 

ーーー形一つ一つに意味があるという和菓子ですが、皆さんは日頃どのような想いを込めて作っているのでしょうか?

濱田さん:当たり前に聞こえちゃうかもしれないけど、やっぱり「これは絶対美味しいぞ!」と思いながら作ってますね。食べてくれる人が喜んでくれる顔を想像しながら。
だから自分が美味しいと思ったものや、食べてみようと思ったものしかお店には出してませんね。

 

ーーーということは、お店に出なかった幻の商品もあるんですか?

濱田さん:いっぱいありますよ。笑
毎回試作をするんですが、試作のときはそんなにたくさん作るわけじゃないんですよね。
だから私が手作りで少量作るとうまくできたぞ、というものを、いざスタッフに大量に作ってもらうと全然上手くいかなかったりするんです。
それで発売日が遅れちゃったりとか、一日だけ販売してあとは店頭に出なかったり、なんてことも結構あります。

 

従業員が一番のファン!?「夢菓房たから」で働くということ

ーーー現在はどんなスタッフさんが活躍されているんですか?

上原さん:私が感じたところでいうと、穏やかな人が多いですね。

濱田さん:販売と製造では雰囲気も結構違っていて、製造の方には人見知りの強い子だったり、会話が得意じゃない子もいたりするんだけど、総じてお菓子が好きで優しい子が多いですね。

上原さん:とにかくいちご大福が美味しくて大好き!という人は多いですね。笑

 

ーーー本当においしいですもんね!社員さんの中にはいちご大福ファンが多いんですか?

上原さん:そうですね。でもいちご大福に限らず、今でしたらマスクメロン大福ですとか、チョコをコーティングしたチョコバナナ大福ですとか、本当に色んなフルーツの大福があるので、商品のファンという従業員も非常に多いですね。

 

ーーーでは、これから仲間にしたいのはどんな方ですか?

濱田さん:商品にも愛着を持って、お客さんにも愛情を持って、お客さんに喜んでもらうのが好きな人、人を喜ばせるのが好きな人、ですかね。
特に販売にはそういった方が向いていると思います。

 

ーーー製造はどんな方に向いているでしょうか?

濱田さん:直接お客様とやりとりすることはほとんどありませんが「人を喜ばせたい」という気持ちは販売と同じく絶対に必要ですね。
美味しいって言われることが嬉しい人でないと、なかなか美味しいものは作れないので。
毎日の和菓子作りを作業として考えるのではなくて、「美味しいものを作るんだ」という気持ちですよね。その気持ちがあるのとないのでは成長のスピードが違いますから。

ただ製造だと特に「黙々と作る時間」なんかもあるんですよ。
どうしても求職者の方への情報でクローズアップするのはお客様と触れ合うような楽しそうなシーンだったり、華やかな上生菓子を仕上げるシーンになりがちなのですが、実際には地味な作業も多くあるというのは理解してもらえたら嬉しいですね。

 

ーーー濱田さんは代表として日頃どんな想いでスタッフの方と接しているんですか?

濱田さま:手作りでたくさんものを作ろうと思ったら、やっぱり「人」の協力がなければ会社が回らないんですよね。なのでまずはとにかくしっかり”育ってもらう”というか、上手になってもらいたいという想いが強いですね。
社員の成長が感じられると私も嬉しいですし、本人も嬉しいじゃないですか。その連鎖というか、繰り返しやなと思いますね。
あとは、大きな視野をもって、大局を見れる人になってもらいたい、という思いですね。
どうしても自分の部署の事を最優先に考えがちですが、俯瞰的に見れる人を育てたいですね。

 

ーーー店頭の花束は何かのお祝いなどでいただくんですか?

濱田さん:ここらへん結構田舎なんで、お花を育てている人が多いんですよ。
そういうお客様が「自分のお花を誰かにあげて喜んでもらいたい」という想いでうちのスタッフを思い浮かべてくださるんでしょうね、お祝い事がなくてもいただいているスタッフもいますよ。スタッフがお客様から花束をもらった、とかって聞くと私自身もすごく嬉しいんですよ。

 

ーーーお客様とそこまで仲良くなる方もいるんですね!

和菓子の販売をしていると、結構相手の家族構成が分かるんですよ。法事があるとか、誰が生まれたとか、何番目の子が入学したとか。
そういったパーソナルなお話を伺うことが多いので「今度のお祝いは何がいいかな」なんていう風に頼っていただけて、お客様と親しくなれるんですよね。
すごく人気のあるスタッフだと「どうしてもあの人の接客がいい!」という声が聞こえたりもして、そういうことがあると、改めてこの職業はすごいなと思いますね。自分のファンが出来る仕事なのですから。

 

好きな地域でしたいこと ~たからの未来像~

 

ーーー遠い未来の話でも、実はこんなことやってみたい!という夢はありますか?

濱田さん:「道の駅のような施設にしたい」という想いはありますね。
結構敷地が広いのと、自分が農産物直売所とか、地元の農家さんとかが好きなのもあって、
そういうものを作り上げていくのも面白そうだなと。
現実は色々なハードルがあるので、今のところは夢ですね。実現させたいですけどね。

 

ーーー今後どんな会社にしていきたいか、理想の会社像を教えていただけますか?

濱田さん:経営理念でも書いてるんですが「お菓子が美味しい、スタッフは楽しい、お客様は嬉しい」そんな会社を目指しています。
やっぱり何よりもお客様に喜んでもらいたいんですよね。
「美味しい」だけじゃなくても「接客がいい」「お庭が素敵」とかどんなことでもいいんですけど、喜んでもらうことが自分の喜びになるので。
自分だけじゃなくてスタッフのみんながそういう想いになって、たからという会社を盛り上げていけたらと思います。

「ここにたからがあってくれてよかった」「ここにたからさんがあることで、この地域は盛り上がってるよね」と言われるような、そういう存在になりたいですね。

 

ーーーでは今は店舗拡大とかはあまり考えていらっしゃらないんですか?

濱田さん:今は「この場所に根ざしてやっていきたい」という想いの方が強いですね。
もちろん従業員を抱えている以上成長は目指さないとダメだと思うんですけど、拡大第一というのはちょっと違う気がするな。

 

ーーーこの地域が好きだからこそ、という感じがしますね!

濱田さん:結構田んぼがあったり、色んなお店があったりして、すごく好きですね。
この場所で店ができるっていうのは自分でも喜びですね。

 

ーーーコロナが収まったら現地まで伺います!
濱田さん、上原さん、本日は素敵なお話をありがとうございました!

 

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